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書くための歴史的仮名遣い入門

さあ、次はとうとう歴史的仮名遣いを書くための勉強です。
勉強とはいっても、まあ、なんとなくやっているうちになんとなくできるようになってくるものですからなんとなく勉強していきましょう。

歴史的仮名遣いが書けるようになったらどうしますか? 歴史的仮名遣いでサイトを立ち上げる? 歴史的仮名遣いで日記をつける? 
目標があるとさっさと憶えられるものなので、どうしたいかということを考えながら練習するようにしましょう。

読むための歴史的仮名遣い入門のほうはもう読みましたか? 歴史的仮名遣いはまずきちんと読めるようになっておきましょう。読めないものは書けません。逆に歴史的仮名遣いがちゃんと読めるような人であれば、一週間やれば大体歴史的仮名遣いで書けるようになります。本当に。

書くほうは読むほうより難しいですが、書くほどに分かってくるものです。紙と鉛筆とをもって、実際にいろいろ書いてみながら憶えていきましょう。

基本は文法を意識しながら書くということ

文法というと勉強っぽくてなんだかやる気がなくなるかもしれませんが、それくらいでやる気をなくしてたら人生なにも憶えることなんてできません。

喰わず嫌いはなかなか直せないものですし、喰って嫌いはどうしようもないものかもしれませんが、しかし文法をしっかりと頭の中に整理できていれば歴史的仮名遣いの上達はかなり早いものになりますし、嫌いなところは克服して、文法をやっていきましょう。

難しいのは最初だけ、それを克服すればたぶんすぐにでもすらすら書けるようになると思います。

平仮名五十音

まずは平仮名です。五十音を思い浮かべてみてください。どのようにして憶えているでしょうか。

問題は「わ行」で、この部分を「わいうえを」だとか「わをん」だとかいう風に憶えていませんでしたか。
小学校ではそういう風にして教えることもあったりするかもしれませんが、あくまでそれは現代仮名遣いのためのものです。歴史的仮名遣いで書くときには、わ行は「わゐうゑを」だということしっかりと認識しておかなければなりません。要は「ゐ」や「ゑ」も、「い」や「え」とは別の平仮名として扱わなくてはいけないということなのです。

「ゐ」「ゑ」「を」の発音について

読み方に関しては「ゐ」や「ゑ」も「イ」や「エ」という風に読んで構いません。「ウィ」「ウェ」と読むのでは、と憶えていた人もいるかもしれません。「ゐ」「ゑ」を「ウィ」「ウェ」と発音していた時代は確かにあったらしいのですが、時代を下るに従って「イ」「エ」と読まれるようになったのです。だから、わざわざそのように発音する必要はないのですね。文中の「ふ」などをそのまま「フ」と読まずに「ウ」などと読むのと同じです。

「を」に関しても同様です。
現代でも助詞として「を」が使われており、「ウォ」と読むように学校で習った、という人もいるみたいで、「を」を「ウォ」と発音している人もいます。現在「を」を「ウォ」と読むのは方言としてその音が残っている地域においてのみで、標準語の音としては「を」は「オ」と読むのが正確です。

ただ、「わいうえを」と小学校で教えているように「を」は「わ行」の平仮名ですから、「『わ』が『wa』なら『を』も『wo』だろう、きっと『を』を『o』と読むのは砕けた発音なんだ」という「誤った規正意識」が働いて「を」を「ウォ」と読んでいる人は結構いるみたいです。学校教育で五十音表というものをしっかりと教えるようになったのにもかかわらず文字を教えることに注意がいって発音についてはあまり気にされなかった、という結果だと思います。「を」は別に「ウォ」と発音する必要はないのだということは、勘違いして憶えていた人は憶えなおしておきましょう。

実はもうひとつ、「ゐ」「ゑ」「を」を「ウィ」「ウェ」「ウォ」と読んでしまうことになった原因があります。それは例えば「ウヰスキー」などの表記にあるように外来語音の「wi」などを表すために「ゐ」などの仮名を用いていたことがあるということです。

確かに「ゐ」の本来の音は「ウィ」でした。しかし「ウヰスキー」などと表記していた時代にも、「ゐ」は既に変化して「イ」と読むのが普通になっています。しかし外来語音としての「wi」を仮名で写すにはなんらかの綴字方法を決める必要がありました。そこで、「ゐ」が「ウィ」であったことを利用して「wi」に当てようと考えたのです。

このような経緯もあって「ゐ」が「ウィ」と読まれるような「昔返り」が起こったのかもしれません。ほかにも「v」の音を表すのにわ行の仮名に濁点をつけるというやり方が行われていました。「ヴァイオリン」と書くところを「ワ゛イオリン」のように書表していたのです。現代ではそのような綴りかたは古風と思われるようになってしまいましたが、個人的にはなかなかいい方法だと思っています。

「アワ行五段活用」は「ハ行四段活用」に

さっそく文法用語が出てきてしまいました。文法ということで、なんだか面倒だよなあ、だなんてことを感じるのはまあ仕方のないことではありますが、文法をある程度は理解しておいたほうが簡単なこともあるのです。
文法があるから難しい、だなんていうのはよく考えたら変な考え方で、文法というしっかりとしたレールに乗ることができれば後は適当にやってたってうまいこといくものです。それをレールに乗るのが面倒だ、だなんて理由でレールに乗るのを止めてしまったら、どこまでいってもあってるのかあってないのかよく分からないようなことになってしまいます。

ここで憶えなければいけない文法というのも中学校でやった程度のものですから、別にすぐできます。みんな中学生のときに一度はやったはずのものです。中学校の時の文法だなんてあんなつまらないものをまた思い出さなくちゃならんのか、と思った方、いまさら昔を思い出してもしょうがないですから、つまらない教え方をした国語の先生を今のうちに呪っておいて、あとはすっきり歴史的仮名遣いを書くという目的のために頑張りましょう。

さて、見出しの言葉は動詞の活用の種類を示すのですが、「活用」というのは動詞が変化してゆくことです。このうち「アワ行五段活用」というものは、否定のことば「ない」をひっつけたときにうしろが「わ」に変化する動詞のことです。言葉で説明するとなにごとも難しくなってしまうものです。実際の例を見てみましょう。

「言う」「追う」「行う」「買う」「喰う」「乞う」「吸う」、まだまだたくさんあります。これらに「ない」をつけるとどうなりますか。それぞれ変化して「言わない」「追わない」「行わない」など動詞の最後が「わ」になっていますね。これらはすべて「アワ行五段活用」なのです。

さあ、ここで歴史的仮名遣いの原則、「『はひふへほ』は『ワイウエオ』」を思い出してみましょう。読むときに『はひふへほ』に当たる部分を『ワイウエオ』とやったのですから、書くときになると逆になるのは当然ですね。すなわち、さっきでてきた「アワ行五段活用」の動詞は歴史的仮名遣いで書くと「言はない」「追はない」「行はない」のようになるのです。

以上のように、これら「アワ行五段活用動詞」は歴史的仮名遣いで書けば動詞の活用する部分はそれぞれ「はひふへほ」となります。たとえば「言はない」「言ひます」「言ふ」「言へば」というような感じです。

説明してみると長長しくなりましたが、こんなもの別にたいしたことはない、要は「わいうえお」は「はひふへほ」というような類のことを言っているだけのことです。これだけでもなんだか歴史的仮名遣いっぽくなりましたね。はじめのうちはこうやって修得した部分だけでも現代仮名遣いに交ぜてつかってみると、憶えが早いしいいかもしれません。

意志推量の「う」について

さて、上のことはもう完璧ですか? しかしながら上の説明だけだとひとつ非常に重大なことが抜け落ちているのです。

実際に上の説明だけ読んでやってみると「言はない」「言ひます」「言ふ」「言へば」のあたりはちゃんとできるんですが「言おう」を歴史的仮名遣いに直すときにどうしても「×言ほう」とやってしまいそうです。
これは間違いで、「意思推量のことば『う』」が動詞についた場合には、「ない」がついたのと同じく「言はう」のようにしなければならないのです。
「意思推量」というのは例えば「こういうことをやろ」だとか「こういうふうになるだろなあ」の「う」です。

なぜそうなのか、と言われてもそうだからとしか言えないのですが、よく考えてみてください。日本語というものは元元は私たちが歴史的仮名遣いと呼ぶやりかたで書かれていたわけで、現代仮名遣いなどはあとのあと、ほんの60年ほど前から使われているにすぎないやり方だということは、しっかりと認識しておかなければなりません。
歴史的仮名遣いでは「言はう」と書くのが当然だったわけですが、話し言葉というものはどんどん変化してゆくもので、「『□au』は『□ou』」という原理に従って「イオー」という風に既に変化していた発音にあわせるために、現代仮名遣いでは「言おう」という綴りかたにすることを定めた、というわけです。

話し言葉と書き言葉とは同じようで違うものですから、「意思推量のことば『う』」についてはそのような性質なのだと憶えておく必要があります。

「う」と「よう」

上のことを習うとはじめは「それぢゃあさうしやう」のように書いてしまうものですが、じつはこれは間違いです。どこが間違いかわかりますか?

ただしくは「さうしよう」と書かなければならないのです。「さうしやう」は間違いです。

これはおかしい、上でやったことと早くも矛盾しているんじゃないか、というふうに思うかもしれませんが、よく見てください。「する」という動詞に否定の「ない」をつけるとどうなりますか? 「しやない」にはなりませんよね? 
これは「しよう」という部分を単語ごとに分けると「し(動詞)+よう(意志推量の助動詞)」というふうに分かれるからであって、すなわち上述の「う」とは別物の「よう」ということばが接続しているからなのです。

意志推量のことば「よう」は歴史的仮名遣いでも「よう」のままなので、ここは最大限の注意を払って見極めるように心がけましょう。
だいたい歴史的仮名遣いが書ける人でもここだけは間違っているという人がそこそこいて、そういう意味ではこれが一番間違いやすい部分であるということができるのではないかと思います。
明治の文豪もこれを間違って書いていた人が多く、「ちゃんと書いてたのは鴎外くらいだ」だとかいうようなことを聞いたこともあります。自分はよく知りませんが、それくらい間違いやすいのでしょう。

文法的に言えば、「う」が接続するのは「四段活用」の動詞、「よう」が接続するのは「カ行変格活用」「サ行変格活用」「上二段活用」「下二段活用」の動詞ということになります。これがわからなくてもまあなんとなく見分けられるんじゃないかと思いますので大丈夫だと思います。

文法的な考え方

文法用語を使えば「ない」も「う」もどちらも「未然形接続」のことばであるということがいえます。ともに同じく未然形接続なのですから、同じ活用形、ここでは未然形に接続することは当然の事である、といえます。

下のまとめをみてみましょう。なぜ「アワ行五段活用」「ハ行四段活用」というのかがこれでよく分かりますよね。
すなわち、「アワ行五段活用」については、未然形については「わ」、その他の活用形については「いうえお」(すなわち『ア行』)というように、五段階に変化しうるから「アワ行五段活用」というのです。「ハ行四段活用」についてにても、下の表を見ればすぐに分かりますね。
同じ動詞も、現代仮名遣いのときには「アワ行五段活用」、歴史的仮名遣いのときには「ハ行四段活用」という風に姿を変えるのです。

まとめ

上の「未然形」「連用形」などは活用の名前です。たぶん英語でいえば現在形の「say」や過去形の「said」があるようなものなんじゃないでしょうか。
英語の動詞は時制で変化するのに対して日本語の動詞は後に来る語の種類によって決まるということですね。

五段活用は四段活用に

さあ、上ではアワ行五段活用をハ行四段活用に、という規則のみを憶えましたが、実は五段活用ならカ行でもサ行でも同じことなのです。

たとえば「書く」ということばについてみてみましょう。これを、上でやった表を参考にして活用させてみると「書かない」「書きます」……「書こう」というように五段階に動詞の末尾が変化しますね。すなわちこれは「カ行五段活用」ということになります。

五段活用は四段活用に、なのですから、「カ行五段活用」は「カ行四段活用」になるはずですね。さてここで「書く」という動詞について現代仮名遣いと歴史的仮名遣いとで綴りかたが異なるのはどのような場合でしょうか。

いままでにやったことから考えてみると、すぐに分かりますよね。答は意思推量の「う」がついた場合です。
実際にどうなるのかというと、現代仮名遣いでは「書う」、歴史的仮名遣いでは「書う」という風になるわけです。簡単ですね。これで動詞の活用語尾については、すべて歴史的仮名遣いで書けるようになりました。

歴史的仮名遣いの活用について特に注意しなければならないものは「意思推量の『う』」についてで、これがでてきたときには書き誤らないように注意する必要があるわけです。この「う」は「ない」とおなじ未然形接続である、ということを利用して、「う」を「ない」に付替えたときにおかしいところがなければそれで正しいということになります。

「わいうえお」は「はひふへほ」に

さてここまででは動詞の活用語尾についてのみ話を進めてきましたが、その他の部分に現れるものについても、見出しの法則が成立ちます。

例えば「ゆうがた(夕方)」は「ゆふがた」、「かわ(川)」は「かは」など。たいしたことはありませんね。

例外の言葉

さて、これにはなかなか例外がたくさんあるのです。そもそも歴史的仮名遣いだからといって「わ」などがまったくでてこないわけではありません。
「(は)ひふへほ」「(わ)ゐうゑを」「(や)い(ゆ)え(よ)」「(あ)いうえお」と「ハ行」「ワ行」「ヤ行」「ア行」それぞれに「イウエオ」があったものを、現代仮名遣いでは全部「いうえお」にしてしまったのですから歴史的仮名遣いで例外がたくさん出てくるのは当たり前。

もっとも、「ヤ行」と「ア行」との「い」「え」は歴史的仮名遣いでも区別しません。元来区別されていたのですが、平仮名が出来上がるころにはふたつの区別はなくなってしまっていたので、平仮名にて日本語を表記する場合には書分けないのです。もし平仮名がもっと早い時期に完成していたら、これも書分けなければならなかったというわけですね。

「わ」を使う言葉

「ゐ」を使う言葉

「う」を使う言葉

「ゑ」を使う言葉

「を」を使う言葉

「い」を使う言葉

次のものは意識して憶えましょう。

「形容詞の語尾」というのは、つまり「×痛ひ」でなくて「痛い」のように書かなくてはいけない、ということ。

連用形のい音便とは「書きて」が「書いて」など、音が変化して「い」と発音するもののこと。これは非常に間違えやすいものです。注意しなければいけません。
また「い」ではありませんが、例えば「問うて」は「問ひて」のう音便であるから「×問ふて」でなくて「問うて」と書かなければいけないなど、音便というものは非常に間違えやすいものです。明治の文豪も、原稿を見ると間違って書いているものが非常に多いです。

「え」を使う言葉

さあ、どうでしょう。これだけでも全部ではありません。たぶんもっとたくさんあります。

こんなにたくさんのものをちゃんと憶えて書分けないといけない、ということを考えただけでなんだかいやになってきたのではないでしょうか。これだけのものを全て憶えるには確かに大変な労力が必要です。しかし、大部分は漢字を使えばごまかせるということはなかなかの助けになります。上の表を見るに半分くらいは漢字を使ってごまかせますよね。

大切なことは辞書を引くということです。じつは大抵の国語辞典には見出しの下にちいさく片仮名で歴史的仮名遣いでの綴りかたが書かれているのです。実際に引いて見てみるとちゃんとありますよね。
注意をしなければいけない音、例えば「ワ」などに出会ったら、この「ワ」は歴史的仮名遣いでは「は」なのか「わ」なのかどっちなのだろう、と注意していちいち辞書を引くようにしましょう。使いながら憶えていくのが一番の早道です。

「ぢ」「づ」を使う語

基本的に「じ」「ず」で書くものは大抵「ぢ」「づ」で通ります。なので「じ」「ず」で書くものを憶えたほうが早そうです。

擬音語擬態語については下にも一部を挙げましたが、基本的にはどちらを使ってもいいので特に気にしなくてもいいです。

「じ」を使う言葉

「ず」を使う言葉

間違ってもいいから使ってみる

以上でおおむねの規則は終わりです。案外たいしたことはなかったですよね。
だいたいどういうものか分かったら実際に使ってみると早く上達すると思いますので、サイトで使うなり、日記で使うなり、手紙で使うなり、ことあるごとに歴史的仮名遣いで書いてみるようにするといいですよ。

ところで今回は字音仮名遣いは説明していません。字音仮名遣いとは漢語を平仮名で書く場合どう書くかということなのですが、字音仮名遣いはまったくの暗記をするよりほかなく、これを憶えるというのははっきりいってしんどいです。そもそも字音仮名遣いは漢字を使えば全て隠れてしまうので、あえて憶えようとする必要はありません。自分もまったく憶えてません。必要なときに辞書を引いて調べるのが一番いいでしょう。

この記事を読んで歴史的仮名遣いを新しく使うようになる人がひとりでも多く増えることを願っています。

掲載・更新日
2007-02-08
2006-05-14
以下略

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